それは一昨年の夏だった。
8年ぶりに再会した友人たちと神戸でプチ同窓会をしたときのこと。友人の1人が結婚するという話で盛り上がっていると、その友人が突然、
「1453君、俺の結婚式の友人代表スピーチをしてくれんかな」
と言ってきたのである。俺は「えっ?」と口をぽかんと開けて固まってしまった。なぜなら、俺はその友人と実質1ヶ月くらいしか一緒に過ごしていないからである。
実質1ヶ月間の付き合いを思い返し、ネタを探す。
しかし、酔っ払っていたのもあって「オッケー、オッケー。任しとかんかい」と特に考えること無く承諾してしまった。
ヘベレケになって解散し、ビジネスホテルで爆睡した翌朝、俺は事の重大さに気づいて頭を抱えた。
「な、なんてことだ。考えなしに大役を安請け合いしてしまった……」
俺にはこういうところがあるのだ。理由はともあれ頼られてしまうと、変に気が大きくなって安請け合いして、大いに後悔してしまう。
友人代表スピーチは人生初のことで経験がない上に、先にも書いたように1ヶ月しか一緒にいなかったことで「話せるネタがあるのか」が一番の問題だった。
俺は帰宅するなり、古い日記帳を取り出した。8年前の記憶を呼び覚まし、使えそうなネタがないか探すためである。
そう、当時の俺は妙に筆まめで毎日飽きもせずその日にあった出来事を細かく書き記していたのだ。ホコリをかぶった日記帳を開き、どんどん遡ってページをめくる。
2013、2012、2011……2007年。4月ごろの日記を発見。すると、すっかり忘れてしまっていた当時の出来事がしっかりと書き込まれていた。結婚する友人とのエピソードもいくつかあったので、すかさずそれらを書き出し、メモした。
「よし、これをベースにスピーチを考えるぞ」
原稿起こしと練習
一応、最低限「友人代表スピーチ」として必要なことやマナーを予習してから、原稿作成にあたった。「別れることを想像させるフレーズはNG」とか「繰り返しを想像させるフレーズはNG」とかそういう初歩的なマナーも何となくしかわかっていなかったから、しっかり頭に叩き込んでおくと良い。
元々文章を書くのは嫌いではなかったし、日記のおかげでエピソードは決まっていたから原稿はすぐに出来上がった。
全体の構成はこんな感じ。
- 自己紹介
- お祝いの言葉
- 新郎との出会い
- 新郎を褒め称えるエピソード
- 改めてお祝いの言葉
原稿ができたら、あとは実際にそれを声に出して読んでみて、詰まりやすいところや違和感を覚えるフレーズなどをチェックして削っていく。ある程度削って修正したあたりから、今度はストップウォッチを使って何分かかるのかを調べた。
スピーチは短すぎてもいけないが、長すぎるのもいけないと思っていたからだ。
スピーチは3~4分の間。
「えっ、短くない?」と思ったなら、こう考えて欲しい。
たとえばM-1グランプリにおいて、1組に与えられた時間が4分。
プロの芸人であってもその4分間を飽きさせずに、絶えず笑わせ続けることは困難なのに、俺のようなド素人が5分も6分もダラダラ話をしていたら、「何だよ、あの野郎。長々と。そもそも誰だよ」と舌打ちの嵐。下手をすれば石が飛んでくるだろう。
そして、声出しシュミレーションを繰り返し、内容を削ったり付け加えたりしながら最終原稿が完成したのが結婚式1週間前。
あとは時間をかけて頭に叩き込むだけだ。
えっ? 「メモを見ながらじゃないのか?」って? たかだか3~4分の原稿内容なんて1000文字足らず。大丈夫、大丈夫。
1週間が過ぎ、結婚式当日を迎えた。
そして、俺は当然のように盛大にやらかす!
結婚式場がわからず迷子になる!
ここが俺の間抜けなところで、致命的な方向音痴。しっかり下調べをしていても、しっかり迷ってしまった。
だけど、これには理由があるんだ。「駅前の◯◯ロータリーにいけば、式場まで直通のバスが待ってるから」というから、「それならすぐ見つかるだろ。余裕、余裕」とかましていたんだ。本当なんだ。
お巡りさんにも聞いた。タクシーの運転手さんにも聞いた。街を歩くおじさんにも聞いた。でも、皆「いや、聞いたこと無いねえ」の一辺倒。
そして、しっかりとバスに乗り遅れたところで、さっき道を聞いたタクシーの運転手さんが「おい、式場わかるんだろ。直接向かえばよかろ」と声をかけてくれた。式場を伝えると「おい、それならそうと言わんか。来週姪っ子がそこで結婚式するんじゃ」と連れて行ってくれることになった。
「スピーチ頑張れよ」と運転手さんに励まされ、いざ式場へ。
運命のスピーチ開始!
正直言うと、スピーチがはじまるまでの数分間の記憶が飛んでいる。
気づくと、「それでは友人代表スピーチです」と名指しされ、フワフワとした気分でマイクの前に立ったところだった。
「えー、只今ご紹介に預かりました1453と申します。◯◯君、◯◯さん、そしてご両家の皆様方、この度は私のような、バスに乗り遅れてしまうような愚か者をご招待いただき、まことにありがとうございました」
何とか遅刻しそうになったミスを帳消しにしようと、本番中に導入部を変えた。
すると、どうやら皆さん、ご存知だったようで、笑って許してくれました^^;
あとは日記から拾った「入学式直後に担任の先生大激怒事件」や「熱く励ましてくれた友人はその事実をすっかり忘れていたこと」など、無理やり詰め込んだ思い出話をして、心を込めてお祝いの言葉をしっかりと言っておしまい。
「ご清聴ありがとうございました」とお辞儀。
3分半ちょい。
席に戻ってからは、見知らぬ人たちから「良いスピーチだった」「お疲れさま」「面白かったよ」とお褒めの言葉を頂戴し、気分が良くなりヘベレケになった。
こうして、無事ミッション達成したのである。
※ちなみに二次会ではしゃぎすぎて、潰れた俺は初対面の人たちにホテルへ担ぎ込まれたそうだ。飲み過ぎには気をつけようね。