僕はチーズバーガーが大好きだ。
愛していると言っても過言ではない。
チーズバーガーへの想いを語ると国語辞典一冊分くらいの文字量が必要になると思うので、今回は割愛しておくことにする。
とにかく、僕はチーズバーガー大好き人間なのである。
おい、このチーズバーガー、バーグがねえ!
先ほどテイクアウトしたチーズバーガーはいつものと少し違う気がした。
いつものよりも随分と薄かったのである。まだ黄色い包み紙をはがしてないんだけど、僕が手にしているのは驚くほどぺったんこで、異様にボリューム感に欠けている。
いつもと同じお店で買ったのに何故だろう。僕は何度も首を傾げた。
けれど、いつまでも包み紙の上から眺めていたって仕方が無い。
もしかしたら着痩せするチーズバーガーもあるかもしれないと前向きに考えた僕は、とりあえず包み紙をはがしてみることにした。
そんな思い込みも虚しく、チーズバーガーはやっぱり薄かった。
そこで僕はひと口齧ってみることにした。
味さえ美味しければ問題ないと、勢いよく齧った。
ぱふっ。
まるでインパクトのない食感しかなかった。僕の前歯が齧り取ったのは、柔らかなパンとケチャップまみれのピクルスとチーズだけだった。
なんと肝心の肉の部分(ハンバーグ)が入っていなかったのである。
肉の挟まれていないチーズバーガーなど、チーズバーガーではない。こんなのはチーズノーバーグだ。
怒り心頭。そして、葛藤。。。
怒り心頭の僕は携帯電話を取り出し、ハンバーガーショップに文句の電話を入れようとした。
だが、一抹の不安が頭をよぎり、僕はボタンを押す指をとめた。
なんて文句を言えばいいのだろう。
「チーズバーガーにハンバーグが入っていなかったのですが!」と声を荒げて言えばいいのか。
僕が間抜けみたいに思われないかな。よくよく考えてみれば、チーズバーガーにハンバーグが入っていない確率なんて、そんなに高くないだろう。
そんな低確率の悲劇に遭ってしまった僕の運が悪いのでは……。
いや、弱気になるな。
どう考えたって僕は悪くないじゃないか。何を弱気になる必要があるのだ。堂々と言えばいい。
「買ったチーズバーガーにハンバーグが入っていなかったのである!」
このように言い切ってやればいいのだ。けれど、大層な言い方をすれば、余計に間抜けな哀愁がついてまわるような気がする。
じゃあ、腰を低くして――。
「あの~チーズバーガーにハンバーグが入っていなかったのですが……」
駄目だ!
こんな気弱な態度を見せたらアルバイト店員たちに舐められてしまうではないか。
最大の懸念「チーズノーバーグ」と渾名をつけられるに違いない。
そんなことをすれば、きっと僕の知らないところで僕の渾名が「チーズノーバーグ」になってしまうに決まっている。
そして、アルバイト店員連中の間で
「あっ、チーズノーバーグさんのお出ましだぜ」
「どうする? 今日はピクルスだけ挟んでみるか?」
「やめとけって、アイツ今度こそ泣いちゃうぜ」
「大丈夫だって。気弱なチーズノーバーグだもん」
「がははは」
なんてやりとりされるに違いない。
妄想につぐ妄想で心が折れるチーズノーバーグさん
結局、僕は何のクレームをつけることなく、ひとり寂しくチーズノーバーグをもそもそと食べたのであった。
文句のひとつも言えない僕なんて、間抜けなチーズノーバーグがお似合いなのだ……。
そう考えると、先ほどまで味気ないように感じられたハンバーグが入っていないチーズバーガーも案外乙な食べ物な気がしてくる。よく考えてみれば、肉抜きのチーズバーガーなんてヘルシーで身体にもいいじゃないか。味だって結構美味しかったもの。よし、次回は店員にこう言ってやるとするか。
「チーズバーガーをひとつ。ハンバーグ抜きで!」
店員たちは一体どんな顔をするのだろう。とても楽しみでならない。
見てろ。俺をチーズノーバーグさんなんて渾名をつけたことを後悔させてやる!