火曜日の晩のことだ。
どうにも具合が悪い……。
頭痛い。めまいがする。寒気はするし、関節や筋肉が痛い。極めつけは強烈な腹痛と吐き気がする。
こいつはまずいなあ……前に一度きついのやったことあるやつだ――。
ベッドに倒れ込み、変な汗をかきながらそう思った。
嫌な記憶とつながる予感
22歳の頃、友達とふたりで鳥の刺身とユッケを大量に喰いまくって当たったときと似たような症状だったのを思い出していたからだ。
本当に死ぬんだろうなと覚悟を決めたくらいしんどかった。
熱は40度。腹痛、腹痛、吐き気、腹痛。痛んで軋む身体を引きずるようにトイレとベッドを何十、何百往復したか。
温めた塩水と粉末スープで水分と最低限の栄養をとって、ひたすら体を休めて治した地獄の3日間を思い出していた。
火曜の晩は、22歳の頃に負けないくらい本当にきつかった。
脱水症状による頭痛。身体中を軋ませる激痛。胃腸に「橋の下のトロール」でもいて、暴れまくってるんじゃないかというほどの激しい突き上げ。
それでも歯を食いしばって強引に眠り込んで、起きては眠ってを繰り返した。とりあえず無理矢理にでも眠っておかないと、菌どもとまともに戦えないからだ。
のたうち回りながらも辛うじて合計2時間ほど眠ることが出来た俺は、翌朝、子どもの頃から世話になっている病院へ向かった。
季節外れのノロウイルス
※写真はノロウイルスのイメージです。
昔、ガラスを蹴破った俺の足の裏を畳縫いにしてくれた院長が、「たぶんノロウイルスやろな」と診断を下した。
「えっ、ノロですか?」
真夏は過ぎたとは言え、まだ8月だ。ポテトサラダによる食中毒ならまだしも、ノロウイルスとは季節外れもいいところだ。
「ただノロにしては熱が高すぎるし、発熱時間が長すぎる気はするけどな」
そう言いながら院長は首を傾げた。
だが、俺は動じなかった。医者の首を傾げさせることに慣れっこになっていたからである。
というのも、今でこそ5年に一度内科に通えば多い方な健康優良中年予備軍野郎になったものの、子どもの頃はまあ体が弱かった。
小6の頃なんかは特にひどくて、原因不明の高熱と吐き気なんかが1ヶ月、2ヶ月続いて休んでいた。
いろんな病院にいっても原因がわからず、何人もの医者の首を傾げさせてきたのだ。結局、輪切りにしても血液検査をしてもわからずじまい。
子供心に「お医者にもわからんことがあるんだな」と思い、それ以降も俺の体調不良の原因がわからず首を傾げる医者を見ても「そういうもんか」と特に気にもしなくなっていたのである。
その点で言えば、今回は「ノロじゃないか」と目処がたっただけでも儲けものだ。
その後、俺のむき出しの日焼け腹をぽんぽん触って診察は終わった。薬をもらって、帰路につく。
マック赤坂見附、復活!! マック赤坂見附、復活!!
とりあえずノロウイルスは感染する危険なヤツなので、部屋に閉じこもった。
とりあえずヨーグルトと果物を喰らって薬を飲んだんだけど、ヨーグルトや果物(柑橘)は刺激を与えるからこういう状態のときはよくないみたい。
(あとに教えてもらって衝撃を受けた。)
整腸剤やら抗生物質やら、もらった薬を飲み下すと、それまで全身を覆い尽くしていた痛みがすっかり取れて楽になった。
相変わらず腹の痛いのはおさまっていなかったが、それでも布団に沈み込むように眠れるようになったのは大きかった。
事態はここから一気に終焉へと向かって進んでいった。
薬を飲み、リラックスして眠り込んだ俺が目を覚ましたのは午後7時半を少し過ぎた頃。
「もうこんな時間か」
と体を起こしたとき、全身に力がみなぎっていることに気がついた。栄養を摂り、じっくり眠ることで体力が戻ってきたらしかった。トイレに起きたのも3,4度だけ、布団に潜ってすぐくらいにまとめてあっただけで、あとは一度もなかった。
どうやら眠っている間に俺の体がノロウイルスを組み伏せてくれたようだ。ほっと一安心。
そして、本日
感染するおっかないヤツということで、大事を取って昨日休んで、今日は自宅で出来る仕事をしている。
菌は追い出せたものの、身体はヘトヘトに疲れているようでぼんやりとしながら作業。
とりあえず気付け代わりに伊集院光の深夜の馬鹿力の古いのを聴いている。
「あーパーソナリティが面白いラジオはリスナーも面白いなー」とか「あーリスナーが面白いラジオはパーソナリティも面白いな―」とか、わざわざ考えるまでもない当たり前のことが頭をよぎり続けるという一時的であって欲しい後遺症はあるものの、とりあえず何とか季節外れのノロウイルスとの戦いは終わった。
いやあ、しかし薬はよく効くねってだけの話になっちゃった。
ノロに限らず、おっかないヤツは突然襲ってくるので皆様方もご用心ください。