マネー・ボール読書録②
第3章にはいると、物語はビリーの現役時代へと場面が戻る。例によってネタバレは回避したいので詳細は省くけれど、ビリーの本質と彼以外のすべての人々が下す彼への評価との隔たりがあまりにも大きく、葛藤するビリーの心の揺れを現す描写が続く。読み進めていくと、ふと太宰治の短編小説「トカトントン」が思い浮かんだ。
たしか20代半ばの青年が主人公の物語で、青年がやる気を起こして頑張ろうとするたびに「トカトントン」という不思議な音が聞こえてきて、やる気をしぼませてしまうという話だったように思う。
別にビリーがそんな奇怪な音を聞いたといっているわけじゃない。だが、若き日の彼が「打てない」葛藤から抜け出そうと工夫をするたびに、何かしらやる気を 奪うような出来事(もっとも本人の不注意によるミスなどだが)が起こって、だんだんとプレイヤーとしての熱を失っていくのが、俺にその小説のような印象を 与えたのかもしれない。
4章になると、ある男にスポットライトが当たる。男の名はビル・ジェイムズ。彼は自費出版で野球に関する持論を展開するのだが、その内容が実に興味深い。 エラーの定義についての考察や、マイク・シュミットがカブス戦にしか出場しなかったらどんな成績になるかなどといった、実に変わった野球観を持っていたからだ。ジェイムズの初の出版物はわずか75部しか売れなかったが、それでも彼は大喜び。さらにどんどんと書き、次々に出版していく。そのたびに売れ行きは 少しずつ上がっていったという。
このジェイムズの野球の観方は本当に参考になると思った。想像力を練って、野球をありとあらゆる方向から眺める感じは俺が見習うべき野球観戦スタイルそのものだった。興味の無い人からすれば「バカバカしい」と一蹴されてしまいそうなへんてこなテーマを、無理やりこじ開け、広げていくジェイムズの野球への情熱には、ある意味でビリー以上に共感させられた気がする。
何だか4章は特に影響を受けそうなところだなあ。読んでいて、「これだ!」感がめちゃくちゃ強くなった気がする。野球に対して異常ともいえる情熱を注ぐ男 のエピソードはモチベーションを著しく上げてくれるようだ。
読書録は読み終わるまでつづきます。