徳島県といえば「鳴門の渦潮」を思い浮かべる人もいるかもしれない。その渦潮は最大で30メートル近くになり、世界最大規模だという。
今回はそんな鳴門の渦潮を見てみようと思い、朝から鳴門に向かって出掛けた。
だが、正直、何もかもが一か八かの賭けだった。
まず「天候は大丈夫か」「定員多数で船に乗れないかもしれない」ということ。それと「船酔いするかもしれない」ということと、そして何より「鳴門の渦潮がきちんと発生しているのかどうか」という、いくつかの不確定要素に不安を抱きながらの起床だった。
そう、鳴門の渦潮は常に発生していて見られるわけではない。
あくまでも自然発生の産物であるから、せっかく船に乗り込めても見られる保証はないのである。
そんな不安の中、俺はこの日、鳴門の渦潮を見るための観潮船に乗るべく国道11号線を東に向かって車を走らせた。
しかし、いざ9時過ぎに駐車場に到着してみれば、車はほとんど止まっておらずガラガラ。
とりあえず「定員多数で船に乗れないかもしれない」という不確定要素は消滅。
天候も数日前に別件で作ったてるてる坊主の効果か、とりあえず雨も降っておらず問題がなかった。
この時点で船に乗ることが確定。
残す問題はふたつ。「船酔い」「渦潮」これだけだ。
とりあえずチケットを確保せねばと、「うずしお観潮船」に入った。ここはチケットを購入するだけではなく、主にお土産コーナーがあったり、トイレや待合室、本当にちょっとしたゲームコーナーを兼ね備えた施設である。
アクアエディのチケット(2400円なり)を無事入手。
それを2階の展望待合室みたいなところを独り占めしつつ、眺めてみる。
「へえ、座席まで決まってるんか。……ん? 海中展望室座席表? 海中? 海の中? 潜水艦?」
出航まで5分を切った段階で判明したことだが、どうやらアクアエディは普通の観潮船ではなく、海中を見ながら移動し、渦潮が発生するあたりが来ると甲板に出てそれを眺めるというものらしい。
まずいことになった。。。
ここ最近、出羽島へ行くのに船移動を2度(往復にすれば4度)経験しており、少し苦手意識はなくなっていたが、もともと乗り物酔いしやすい体質の俺。何なら山道をぐるぐる自分で運転していてさえ酔うことがある俺だ。
そんな俺が海中を眺めるような船で移動して大丈夫なのだろうか……。
しかし、そんな後悔をしている間に施設内にアナウンスが入った。
「アクアエディをご利用のお客様~」みたいなやつだ。ようするに時間が来たから船に乗り込んでくれということである。
大きく息を吐き出した。俺は、覚悟を決め、愛用のカメラとチケットを握り締めて船乗り場へ向かった。
いざ入船。
乗客はとりあえず最初船底に用意された海中展望室に収容される。
両サイドを巨体の男性に挟まれる不運に見舞われたものの、乗客は少なく、席が半分以上空いていたため、乗客同士顔を見合わせて「これ、実質どこでも移動し放題ですよね??」みたいな空気になり、事なきを得た。
実際、船が動き出した時点で誰かが途中乗船してくることはありえない。
よって皆、ちりじりに好きなように座ることとなった。それについてアクアエディの人が注意することもなかった。(そういえば最初に割り振られた座席では、全員B側の席だったのだがあれはなんでだったのだろう?)
何気なく見上げた壁には何かがぶらさがっていた。よく見ると「黒く中が見えないエチケット袋」だった。俺は、このとき非常によくないイメージを頭に浮かべた。
気を紛らわすため、海中展望室内を見渡してみる。
天井にはまるで天の川を模したような装飾(よく見ていると、流れ星のように動く光も見られた)
ネオンライトのような近未来的な光で妖しく光る周辺。
エアコン機能はないのか、密室となった蒸し暑い船内。。。
窓の外には濁った海。。。当然窓を開けることは出来ない、ありえない。
しばらくして、甲板に出ても良いことを知った俺は新鮮な空気を求めて階段を登った。
少し風が強く、アクアエディが進む勢いで跳ね上がる水しぶきが片っ端から俺たち甲板に上がった乗客たちを濡らしたが、そんなことは露ほども気にならなかった。
何よりも新鮮な空気がありがたくてたまらなかったからだ。
それからしばらくピチャピチャと濡れながら、カメラで周辺一帯の写真を撮りまくって過ごした。
大鳴門橋
これが大鳴門橋。
車で渡ることは何百回と経験あれど、この角度から見たのは初めてかもしれない。
こうして見てみると結構大きい。(ちなみに小鳴門橋もある)
だが、しばらくすると再び海中展望室に戻るよう指示が出た。どうやら何かを見るらしい。
一旦甲板から階段を降り、海中展望室へ。
そこでアクアエディの人から「時折、竜巻のような小さな渦が見えることがございます」的な解説を受け、我々乗客は必死に眼を凝らして濁った海中を見てみた。だが、時々「もしかしてこれかな?」と思うような、それらしきものは見えるくらいで正直よくわからなかった。
変な空気になるなか、アクアエディが渦潮多発地点に到着した。
再び甲板へと駆け上がる。なかなか忙しい観潮船である。
ひとりだけ女性が真っ青な顔で手すりにつかまり、うずくまっていた。おそらく船酔いしたらしい。
声をかけようかと思ったが、返事も危うい状況で見ず知らずの男に心配されても迷惑だろうかと思い、そっとしておくことにした。
俺はラブラブな若いカップルとラブラブな熟年夫婦の間に陣取り、渦潮が現れるチャンスをうかがっていた。カメラをかまえ、水しぶきを浴び、左右をラブラブオーラに挟まれ、じっと待った。
途中別の船が良い感じで現れたのでそれを撮っていると、
誰かが「あれ、渦潮じゃない?」と明らかな標準語で叫んだ。
すると一斉にみんながそっちを向いてパシャパシャと写真を撮る。
しばらくするとまた別の誰かが「あれ、渦潮じゃない?」とこれまた違うイントネーションで言うと、みんな一斉にその方向に向かってシャッターを切るというのを数分繰り返した。
結局、ド迫力ある大きな渦こそ見ることは出来なかったものの、小さいか中くらいの渦はしっかりカメラに収めることが出来たので大満足である。
実際、運要素強めなので下手をすれば全然渦巻かないタイミングもあるかもしれないそうなので、これはわりとラッキーな部類と考えて良いと思う。
もっとも公式サイトでは毎日何時ごろが見頃なのか、大潮(大きな渦が見られるタイミング)はいつかなんていう情報を細かく教えてくれるので、ちゃんと見たい方は前もってしっかり見ておきましょう。
ちなみに聞いた話では、1年を通して一番良い感じの渦潮が見られるのはゴールデンウィークあたりだそうだ。渦潮もなかなか観光客の多いタイミングで派手に暴れてくれるようで、徳島県としては非常にありがたい限りである。
もっともそのシーズンにはたくさんの観光客でごった返すので、人混みが大の苦手な俺は絶対にこられないことだろう。ただ一度はちゃんと鳴門の渦潮の本気ってものを見てみたいとも思い、胸中複雑なものもなきにしもあらず。
やがて船は元の乗り場へ到着。
船を降り、俺は何とか車まで向かい乗り込んだ。
運転席に座った途端、大きく息を吐き出した。そう、俺は船酔いをしていたのである。
軽く目が回っていたので、それが収まりきるまで駐車場で休憩した。