「ほな、縁側に干してあるんが他にあるけん、持ってきて食べな」
とおばちゃん。「わーい」と大喜びで縁側に向かって駆けていくと、そこには確かにおばちゃんが持っていたのと同じように、「S」字に串刺し状態のマムシが吊り下げられていた。それを手に取り、「いただきます!」というと、俺は焼き鳥でも食べるようにムシャムシャと食らいついたのである。
マムシが猛毒を持った蛇であることは100も承知である。だけど、祖谷に住んで何十年の大先輩が食べられるというのなら、毒の心配もないのだろうと、躊躇は微塵もなかった。
食べながら思った。
「ホッケに似ている」と。
その串刺し状態のマムシというのは、日干しにされてほとんどミイラ化していたので、そんな食感になったのだろう。気になっていた生臭さなどは皆無で、肉質にもクセは感じられなかった。ただ、もう少し塩気があれば、ちょうどいいおつまみになったかもしれない。
醤油をひとたらしすれば、立派なおかずにもなりうるとも思ったな。
「うまい、うまい」とマムシをむさぼり食う俺を見ながら、「よっぽど腹減っとったんかいな」と笑う井戸端会議軍団であった。全部食べ終わったあと、「ごちそうさまでした! これで昼からもギンギンで頑張れます」と力こぶを見せた。
こうして祖谷でひとつ小さな夢をかなえた俺は、その日元気に働いて過ごすことが出来たのである。
とはいえこのとき俺が口にしたのは、あくまでマムシのミイラだからね。もっとマムシマムシしたというか、蛇蛇した感じのを食べるまでは「蛇を喰った」とは胸を張れないんじゃないかと思わないでもない。まあ機会があれば食べてみたいなくらいでおさめておくとするか。
以上、祖谷思い出話でした。それではまた、したらなー。