怖いというよりも、ゾクッとしたことを思い出した。
それはまだ、フリーターとしてアルバイトに精を出していた春頃だったかな。
(前に書いた「まんが喫茶でアルバイトをしていた」あたりのこと)
そうだ、岡山へいこう
アルバイトを終え、家に帰る途中に前日に観た「丑三つの村」を思い返していた。古尾谷雅人の怪演が凄いという友人の勧めで観てみたのだが、面白かった。友人から「これは岡山で実際にあった事件をもとに作られたものらしいぞ」と聞いていたので、何気なく、今度の休みの日にでも現場に行ってみようかと思った。地元からだったら2時間くらい高速バスに揺られれば行けるし、興味もある。
(その凄まじい事件のあった場所というのは、いったいどんなところなんだろう)
家につくなり、俺は早速パソコンを起動して、高速バスのチケットの手配を行いはじめた。基本的に何かやろうと思ったときにすぐ動き出さないと、山の天気よりもめまぐるしく変動する気分屋だから、気分が変わらないうちに準備をはじめてしまおうと思ったからだ。
すぐにバスのチケットとホテルの予約を済ませた。幸いアルバイトの休日が平日だったので、バスもホテルもがらがらですんなり理想どおりのものを確保できた俺は、そのままネットで映画の元となった事件について調べることにした。何の気なしに関係ありそうなサイトを開いて、じっくりと詳細を読んでいった。
このあと、俺は思いもよらない衝撃の事実を知ることになる。
ちょっと驚かさないでくださいよ。
「へえ、凄い事件だったんだな……」
それが事件に関する正直な気持ちだった。だが、それだけだった。まあ、前日の晩にそれを元にした映画を観ているので、「ええっ! 予想外!」ってことなんかあるわけもなく、漠然と思うだけだった。だけど、事件の起こった年月日を観た途端、驚き、マウスを動かす手とモニターを見る目が固まった。
津山事件が起こったのは1938年5月21日。
俺が現場に行ってみようかと予定したのが2008年5月21日。
ちょうど70年目にあたる日だったのだ。
偶然と言ってしまえばそれまでなんだけど、あまりにも偶然が重なりすぎて気持ち悪くなった。普段なら多少不思議なことが起こっても「たまたまだよな」で済ますんだけど、このときは古尾谷雅人の怪演が記憶にしっかりとこびりついていたため、気楽に済ませることができなかった。
なんだ、怪談でよくある「呼ばれちゃった」的な流れは……。もうどん引き。ありとあらゆるものにどん引き。変なタイミングで丑三つの村を借りて観たことも、変なタイミングで現場に行くことに決めてしまったことに対しても、とにかくどん引き。まあ、偶然が重なっただけなんだろうけど、いざ体験してみると薄気味悪いよね。
まとめ
え? 現場には行ったのかって?
いや、結局普通に岡山へ行って、普通に岡山城などを巡って、普通にホテルに泊まって帰ったよ。普通ならこの手の話の流れじゃ完璧にフラグが立ってて、現場に行くんだろうけど、実際はそんな風なことにはならないよ。だって怖いんだもん。ひとりだしね。でも、友達数人で企画してたら、間違いなく面白がった感じを装って行ってただろうな。そうしたら、何か起こったんだろうかね。
あと来年の5月にはちょうど80年目になるから、興味のある人は行ってみてはいかがかしら。