蛇類を食べるというのは、サバイバル漫画や刃牙(作者が自衛隊出身)なんかで読んで知ってはいた。でも、そもそも俺は頻繁に山で遊んでいる割に蛇との遭遇率が極端に少なくて、人生で数えられるくらいしか出会ったことがなかった。そんなこともあり、食べる機会に恵まれないでいた。
それだけに蛇そのものが遭遇率の低いレアキャラみたいな感覚があったため、「え? 祖谷に住んでるとマムシ食えるかもしれねえの?」と内心テンションが上がった。
だけど、マムシを食べられるチャンスはなかなか訪れなかった。(もっとも、30年ものの自家製梅干しや手作りバラ寿司、コロッケ、デカ鍋で作った山盛りカレーやお好み焼きなど、シンプルに旨いものは山のようにご相伴に預かったんだけどね笑)
まあそのうち食べられるチャンスがくるはずさ~なんて思って過ごしていたわけ。
そんなある日、先輩からおつかいを頼まれて、仕事関係のおばちゃんちにスケジュールを打ち込んだ紙を届けることになった。事務所から10分15分くらい離れた、落合集落の上の方のご自宅だ。
社用車で行ってみると、どうやら近所の人たち数人と井戸端会議をしているようだった。面白そうだと思って、「こんちは~」と挨拶しながら近づいていくと、件のおばちゃんが手に何か串のようなものを持っているのに気が付いた。
「ああ、徳嶋君、こんにちは~」とおばちゃん。「ちわっす。これ、スケジュールの紙です」とおつかいをとっとと終わらせ、すぐに気になっていた串を凝視する俺。
何か棒状のものが「S」字で文字通り串刺しになっているのがわかった。
「それ、なんすか?」
俺があまりにも凝視しながら聞くものだから、井戸端会議の参加者たちは皆おかしそうに笑った。
すると、井戸端会議に参加していたおばちゃんちの大将が「マムシよ、マムシ」と腕組みをしながら白い歯を見せた。そして、別のおばちゃんが「精力つくでよ~」と笑う。
「えええ! マムシ!?」
俺のリアクションが気に入ったのか、おばちゃんが面白半分に「良かったら食べるで? ほなけどいらんやろ?」とからかいの眼差しをむけてきた。いやいやいやいや。俺からすれば、願った狩り叶ったりの大チャンスである。断る理由など微塵もなかった。
「食います! 食いたいです!」
とかぶせ気味に言った。「えっ? ホンマに食べるん?」とおばちゃん。「実は前々から食べたかったんすよ、マムシ」と答えると、大将が「変わっとんなあ」と苦笑い。