世界初の滝ソムリエ徳嶋ダイスケは悩み、葛藤していた。
滝を飲み歩き、自分なりにテイスティングを重ね、レビューを公表すること10回。そろそろ滝ソムリエとしての所作に馴れてきた今日この頃。
だが、そんな徳嶋は常に頭を抱えていた。
「自分の表現力、文章力では読み手に滝の水の味を的確に伝えられていない」と考えていたからである。
たとえば徳嶋は「杉味」だとか「椿味」だとか、そういった表現をする。
だが、それはあくまでも徳嶋の主観的な印象でしかなく、結局実際に飲んでみなければ、どのような味なのかわからない。飲んだことのない人にも伝わらなければ、何の意味もないのではないか。
そんな思いが、徳嶋の頭のなかでぐるぐると渦巻いているのであった。
だが、ただ頭を抱えてみたところで事態が良くなるわけではない。だから、徳嶋はさまざまな勉強を開始した。
たとえばワインのソムリエとして知られる田崎真也氏の「ワイン上手 深く味わう人へのアドヴァイス」という本を読み、テイスティングとは何ぞやと言った基本に立ち返る勉強だ。
同書においてテイスティングには、「ぼんやりとした主観的な記憶ではなく、きちんとした共通性を持つデータの蓄積を重ねなければならない」と書かれている。
つまり、誰が聞いても読んでもわかるように伝えなければならないわけだ。ただ飲んで、味の感想をいうだけでは話にならない。
「なるほど……たしかにそのとおりだ!!!!」
徳嶋は猛省した。
そして、改めて味の表現を見直し、出来るところまで具体化してみることにした。
以下は徳嶋の懸命な努力の結果の賜物である!
現段階での徳嶋表現の限界
椿味とは、
椿の蜜を思わせる、まろやかな甘みを含む味のことで、端的に言えば「甘露」な味わい。ほのかに甘い香りは控えめながらも確かに感じられる。
杉味とは、
視覚的には泡立ちが目立つことが多く、まるで炭酸水のような見た目。(勿論しゅわしゅわするわけではない)基本的にはスッキリとしたクリアな口当たりであるが、杉成分の多少によって濃度が変わり、濃いほどえぐみが増して飲みづらくなる。
桧味とは、
まだ一度しかテイスティング出来ていないため、データ不足。あくまでも印象でしかないが、杉と比べて桧は水分中に含まれる要素として非常に主張が強く、存在感がある。舌にまとわりつき、また、喉に絡まる。
川魚味
鮮度の失われた川魚のように大変生臭く、えぐみが強烈であり、飲んでいるうちにえずくほど。水そのものの香りは特にないのに、口に含んだ瞬間の生臭さはかなり辛いレベル。
無味
読んで字のごとく味が無い。良くいえば「市販のミネラルウォーターのよう」であり、悪く言えば「個性が感じられず、主張の少ない」味である。ただクセがないため、誰でも抵抗なく飲むことが出来る。安心感ならナンバーワン。
まとめ
このような具合になった。徳嶋は自身の語彙力に大きく失望したが、彼は、欠けて足りないものを補うことを諦めなければ、必ず前に進めることを知っている。
一歩一歩の繰り返しがスタートとゴールを結ぶ。これは徳嶋が山から学んだことのひとつで、大切にしている考えかただという。
「なに、必ず完璧に伝えられる表現をしてみせるぜ」
そう呟いて、徳嶋ダイスケは不敵に笑うのだった。そんな彼の今後に乞うご期待と言って、この記事を締め括ろう。
それでは次回更新までばいばーい(*´∀`*)