「これは兵庫の山の神が俺を帰したくないんじゃねえか?」と本気で思わないでもなかったが、「冗談じゃねえ。俺は徳島の山の神のもんだ」と心を鬼にしてハンドルを握った。アクセルを踏んだ。
途中、「これは本当に神戸なのか?」「俺らが知ってる神戸じゃねえが」という、真っ暗闇の中に「ここは誰がなんと言おうと神戸だ」と言わんばかりの標識を発見。ぼんやりと浮かび上がる「神戸市」という3文字に寒気を覚えた。
嘘だ。神戸にこんな真っ暗闇の山なわけがねえ。これはキツネもしくはタヌキが我々を化かしているに違いない。ここは神戸じゃねえ。獣たちの作った幻の世界だ。
こいつを突破するためには、「これは幻だ。惑わされるな。俺たちは俺たちを信じていくんだ」という強い信念が必要だった。
しかし、不思議な現象はとどまらない。
途中、カーナビの矢印(我々が乗った愛車・鉄の棺桶3号の現在地)が、実際には2、3キロ以上は移動して前進しているはずなのに、ピタリと止まって動かなくなったり、
数メートル走るたびに何か木の実のようなものが車の屋根を叩く音がしたり、
とにかく様々なことが我々を翻弄し続けた。
だが、そんなこんながありながらも、気付けば目的地である明石駅……ではなく、友彦くんが住むマンション前に到着した。