山道の複雑さ、不規則さを舐めていたわけではない。俺もこの1年以上徳島県内の色々な山道を移動しまくっている。
GPSが捉え損ないかねない、山道の高低差も念頭におきながらハンドルを握っていた。
ところがどっこい。
目的地まであと200メートルで、ナビには旗印が立っているのが見えるところまで来たとき、俺は何故か山奥の民家の前にいた。
おい、カーナビよ。お前は俺に人ん家の庭を突っ切って行かそうとしてるのか。
さすがにそんな無茶苦茶な真似は出来ないので、仕方なく一旦来た道を少し遡り、分岐点まで戻った。
パッと見るだけでも、「この先は対向車来たら地獄であること間違いなし」な狭い狭い道への入口だった。
ガードレールやカーブミラーの設置も曖昧。道の舗装は辛うじてなされているものの、台風か何かの影響なのか、木々や落下してきたであろう石たちが行く手を阻んでいた。
本音を言えば、
「今すぐ引き返して、家に帰り、飯食って眠りたい」という心境だった。
しかし、今年俺が雲海を見られる機会はそう多くないはずだった。
と言うのも、雲海が見られるシーズンは「3~4月、10月~12月」と限られている。12月に入れば山道は凍結するおそれがある。
この日が11月10日だから、来月まで全ての土日を使えても、6回しかチャンスはない。そのうち何回条件を満たす朝を迎えられるかの保証もないのだ。
眼前にチャンスが転がっているのだ。
手を伸ばし、掴みにいかずにいてどうする。行くしかないだろう。
行くか行かぬかではない。
行くしかないのだ。
ほんの一瞬だけ迷ったのは認めよう。だが、俺は狭い山道への分岐に向かって進んで行った。
それは転がりこんだチャンスを、しかとこの手に掴み、雲海の景色を見るために!