仮に「祖谷に来たら食っとかなアカンでしょランキング」というものが存在したとするなら、おそらく何年か連続で1位に選ばれたのちに殿堂入りするであろうメニューがある。
それが祖谷そばだ。当サイトでも何度か登場し、何度か紹介している祖谷そば。俺はこの究極的にシンプルな、素朴なそばが好きである。その好きな理由というのが、「落ち着くから」だ。
そんで今回は東祖谷にある、山奥の蕎麦屋さんをご紹介。その名も、
東祖谷名産 純手打ちそば そば道場
良い名前でしょ。豪快に笑う大将と、にこやかな女将さんと、周辺地域では「店の味を継承すべく都会から舞い戻ってきた」と言われているお姉さんの3人で営まれているお店だ。
仕事柄、顔なじみだったんだけども、一度も食事出来てなかったので、休みを利用して行ってみたというわけだ。
蕎麦。なんだろうな。この和食好きをくすぐる響き。そばを「たぐる」なんて専門的な動詞が存在するけども、果たしてそれを英語にどう翻訳するのか皆目見当もつかない。まさに日本独自の食文化といえる蕎麦。
そんなに数多く食べてきたわけでもない俺でさえ、蕎麦屋さんに来ると気持ちが引き締まるというか、少し高揚する。単純に食事に来てるだけなんだけども、同時に嬉しい儀式を執り行っているような感じがするからだろうか。
とはいえ、前述のとおり、このそば道場の皆さんとは顔なじみってことで、わりと慣れた感じで「こんちは~」ってな具合で暖簾をくぐってメニューを見上げたんだけどね。(内心ちょっと緊張してたけども笑)
いろいろあるね。
なんかスゲェひかれる「梅とろろそば」。「おいしい食べ方」でぜひご賞味あれ!って書いてあるけど気になるな。でも、「にしんそば」も未経験で気になるし、こういうときはシンプルな「ざるそば」とか「かけそば」とかにしたほうがいいだろうか。
ん?
「そばだんご」ってなんだ?
非常に気になる、美味しそうなメニューが並んでいて、俺は内心頭を抱え込んだ。何を喰えばいい?
普段なら店の方に聞くんだけど、今回は何となく自分で決めたかった。しばし熟考の後、お姉さんに向かって、
「そば定食くださ~い」
と注文した。よく考えたら腹ペコだったのだ。だったら、いかにも色々と詰まっていそうな定食が最適じゃないかと気が付いたのである。
ちなみに席につけば、このようなメニューボードがある。
メニュー名と写真が並んでいてわかりやすい。日本語表記のほうには写真はないけど、英語表記のほうには写真付きで紹介されているので、俺のように迷いまくった場合には参考にしよう。
ちなみにそば定食の品目としては、
かけそば、そば米雑炊、そばがき、ごはん、漬物というラインナップが揃うらしい。
俺が座った席からは、チラっと厨房の動きが眺められる。てきぱきしたそば道場の皆さんの活気を感じることが出来て、とても微笑ましい。
定食が完成するまでの間、しばし店内を眺めてみることにした。
考えてみたら、仕事でやってきても、のんびりすることなく嵐のようにやってきて、嵐のように過ぎ去っていくばかりなので、あまりじっくり何があるのか知らなかった。
座敷席
俺が座った席から見て、右手側の奥には座敷席が結構広々と伸びている。なるほど。座布団にすわって蕎麦をずるるるるっと食べるのも良いかもしれない。
旨いセルフの水
あとセルフのお水も完備。多分山奥から引いてきている水で、飲んでみたところ非常におしゅうございました。水を汲むときの注意点が書いてある。「お水を出す時は強く押さないで下さい」「少し押して下さい・お願いします」ということだ。
可愛いフクロウ
なぜかお客を見守るフクロウちゃん。つぶらな瞳が非常に可愛らしい。
そのフクロウちゃんの頭上には白黒のダブル招き猫ちゃんたちが、お客さんを招きまくっていた。愛猫たちを思い出し、少しホームシックが芽吹いたのはここだけの秘密だ。
並ぶ色紙たち
ちょっと見えづらいけど、「そば博士」の異名をとった高瀬礼文氏や「そばによる地域おこしのカリスマ」会津桐屋の唐橋宏氏など、そば界隈のレジェンドの色紙が並び、その中に、また別界隈のレジェンドのサイン色紙が……。
充電させてもらえませんか? 出川哲郎氏
リアクション芸人のレジェンド・出川哲郎氏のサインもあった。
同じちっちゃいおっさんとしてはマジリスペクトしている御方である。「ヤバイよ! ヤバイよ!」がなかったらわからなかったけども。
お馴染みのシールだね。徳島にも何度か来てくれているみたいで嬉しいな。
おでん 1本100円
おっ! おでん用のお皿と味噌おいてくれてる!
田楽っぽく楽しめるってことかいな。ええやん! また別の日に買いに来よう!
トイレは店の外に出て左手に曲がったらあるようだ。
「ふむふむ」と腕組みしつつ、納得しているとお姉さんが「そば定食」を持ってきてくれた。その際に「そばがき」の食べ方を教えてくれた。一緒についてきた、生姜醤油をつけて食べるべしとのこと。
さて、こちらが「そば定食」だ!
そば定食
はい、ドーン!!!
素晴らしいボリュームと彩りでしょうが。もはや「祖谷定食」と言っていいんじゃねえかってくらい祖谷っぽいメニューが目白押しだ。何から食べようなんて迷っている暇はない。
まずは蕎麦からだね。伸びちゃうから。
具材は、刻んだ油揚げとネギ、かまぼこという顔ぶれで安堵出来る。
ひとくち「たぐ」って驚いたのは、「こんなに洗練された祖谷そば初めて!」「恐ろしい子!」ということだ。個人的な印象としては、祖谷そばというものは「もっと未完成。だけど、それがいい!」という、優れた素材と環境任せの観光食というイメージが強かった。
もちろん今まで食べてきた祖谷そばも旨かったが、ここのはホンマ洗練されているのだ。
ちゃんと「蕎麦」というフォルダに堂々と居る蕎麦というか何というか。「うちは観光関係なく蕎麦一筋でやってるんで」という気概を感じるのだ。もちろん観光客への配慮はあるけれども、その一面がなくても「蕎麦」という看板ひとつでやっていく職人の匂いがする。
旨い。途中何度か視界に七味唐辛子の瓶が入り、「味変するか?」と自問したが結局する間もなく、たぐり終えてしまった。
そして、ここで俺が手を伸ばしたのが……、
漬物
漬物も良いね。そのお店の感性みたいのが、ぼんやりとわかるから。
ちなみに上の画像右側が、大根の漬物。いわゆるタクワン乃至タクアン。控えめで素朴な味わいの、美味しい漬物だ。
そして、左側。珍しいタケノコの漬物。梅風味に漬かった濃いめの漬物だ。クエン酸を感じられ、疲れが吹っ飛んでいきそうだった。お姉さんから味の感想を問われた唯一のメニューである。(お姉さん的には「梅味は梅干しに限る」そうだ笑)
漬物をひとかじり、ふたかじりした俺は、ぐびぐびっとお冷を飲んで口の中をリセット。
ご飯をむしゃむしゃ。
水分をたっぷり含んだご飯は、母の炊くご飯を思い起こさせる。
それはさておき祖谷においてお米は貴重だからね。何しろ土地柄、田んぼがしづらくお米が思うように収穫できないという歴史背景があって、そこから「そば米汁」という文化が生まれたそうな。
そういう歴史が頭に入っていると、お茶碗一杯のご飯へのありがたみの感じ方が変わってくるよ。
そして、徳島を代表する郷土料理「そば米汁」をすする。
そば米汁
いやあホッとするよ。
この具沢山で、いかにも栄養満点な感じたまらん。
具材はニンジン、タケノコ、シイタケ、豆腐、ネギ、そして、そば米といったところだろうか。夏場などは汗かくでしょ。こいつを水筒に入れといて、水分補給したら適度な塩分と栄養とれていいような気がしないでもないな笑
旨いわ~。フリーズドライのを作って食べたりはするけど、自分で作ってという経験はないから一度作ってみても面白いかもしれんな。
ちなみに徳島県では給食に「そば米汁」が出る地域が多い。俺のそば米汁初体験は給食だった。
そして、最初からずっと気になっていた、中央に鎮座しているアイボリー。
そばがき
一見すると雪見だいふくのようにも見えるが、もう少しボソッとしたお餅風の食感である。
お姉さんから「生姜醤油をつけて食べる」と教わったものの、最初のひと口は生のままいってみる。
口に含んだ瞬間に、蕎麦の風味が鼻孔をドーン!!!!してくる。
Wikipediaで調べてみたら、そばがきというのは、蕎麦粉を熱湯でこねて餅状にした食べ物らしい。ついでにわかったことだが、人類における蕎麦の歴史は古く、縄文時代には蕎麦っぽいものを喰っていたらしい。ちなみに、このそばがき自体は鎌倉時代くらいから食されていたようだ。
そばつゆや醤油をつけて食べるのが定番らしいが、このそば道場では生姜醤油でいただく。
箸でくずして取って、生姜醤油の小鉢にちょいちょいしてからパクッ!
あー旨い笑
あと十年出会うのが早かったら、この良さがわかってなかったかもしれないな。素材の魅力を味わうにはもってこいのメニューだと思う。もしも車で来てなかったら、一杯ひっかけたいくらい。
最後は蕎麦もそば米汁も全部の出汁を飲み干し、完飲完食! ごちそうさまでした!!!!!!
お会計の際には、「旨かったっす!」と伝えられて満腹満足だ。
祖谷まで来たら、足を運んでもらいたいお店のひとつである。もしかするとヒィヒィ言いながら働いている俺らしき小さいおっさんと遭遇するかもしれない笑
美味しい祖谷そばを堪能出来るお店。そば道場。
取材協力いただき、誠にありがとうございました! また食べにいきまーす!
それでは今回はここまで。したらなー。