店の前まで来たときに、

ふと職場の先輩が「岩豆腐」なる祖谷の郷土食について教えてくれたことがあったのを思い出した。土地柄、お米がとれずに貴重だったことから、鏡餅がわりにと食されていた岩豆腐。
とにかく巨大で、「買うときは覚悟しな、しばらく豆腐漬けの日々が待ってるぜ」と教えてくれたのだ。それを店前で思い出した。
そう、一人暮らしの食生活としては尋常ではないボリュームの豆腐であることを教えられていたのだった。だが、もう俺は注文していたし、まだ岩豆腐自体未経験で、やっぱり食べてみたかった。
それに何より、この日は6連勤最終日で翌日から2連休が控えており、帰省することが決まっていた。「ちょいとしたお土産ができたな」くらいの感覚で、あけっぴろげのお店に入っていく。
「すいませーん、先ほど電話した徳嶋です」
中ではせわしなく、そして、無駄なくテキパキと店内や道具などを丁寧にお掃除するお店の方々がいた。そして、その奥から、先ほど電話でお話をしたと思わしき女性が現れた。

誤解しないでほしいが、あえて表現しておこう。
不思議なプレッシャーを感じた。しかし、決してネガティブな意味ではない。
むしろ、何かしらに特化した職人さんが持つ、独特のオーラとでもいうべきか、そういった類の「ホンモノ」を感じさせる類のものといえた。
たとえば、技の館で出会った藍染め職人の方しかり、北室白扇さんしかり。ひとつのことを極めんとする人が放つ、独特の空気感。もしかすると、それを人は職人気質なんて表現するのかもしれない。(なんて語りまくっといてなんだが、「私、別に豆腐作ってないわよ」と言われたら超絶恥ずかしい笑)
そんなことを想像しながら突っ立っていると、「はいはい」とマスクの上に見える目を細めて、女性は目の前で豆腐を手際よく切り分けてくれた。遠目にもわかるそのデカさ。ボリューム。いったいどれだけの大豆が1立方センチメートルに凝縮されているというのだろうか。
「こんにゃくはどうします?」と女性に聞かれるも、
「すみません。財布に600円しかなくて」と頭をかくしかなかった俺。
