俺「変なこと聞きますけど、やっぱり音楽好きなんですか?」
青年「え? まあ、はい。大好きですね」
俺「へえ。俺ね、音楽聴くのは好きなんですけど、バンドとか音楽とか詳しくないんす。でも、楽器出来る人ってマジ凄いと思うんすよね」
青年「あははは」ガサゴソガサゴソ
俺「実は俺もバンド組んでたことあって、ベース担当してたんですけど、結局弾けずじまいで今に至るんですよ~」
青年「あははは」ガサゴソガサゴソ
俺「ちなみに楽器とか演奏できます?」
と俺が何気なく聞いたときだった。それまでガサゴソと物販での仕事の手を休めることのなかった青年の手がピタリと止まった。もっとも彼の手が止まったのは、1秒か2秒程度の超短時間だったと思うが、たしかに止まったのを明確に覚えている。
そして、青年は俺に満面の笑みを浮かべて、
「ドラム……ドラムできます」
と教えてくれた。俺は「へえ! ドラム! すげっすね! 練習するのも大変そうやし、リズム感もめっちゃいる大事なパートやないですか」みたいなことを、音楽知らない人間ながらも言った気がする。
彼は変わらぬ柔和な表情を浮かべたのち、ふたたび作業に没頭しはじめた。
それから5分と経たないうちに、青年は段ボールガサゴソする手を止め、
「じゃあ、いってきます」
と言ってその場を立ち去った。
俺は「トイレかな?」なんて呑気に思いながら、何気なく青年の背中を見送った。
それからライブが終わるまで、彼が戻ってくることはなかった。(と記憶している)
しかし、「なげートイレやなあ」と思うこともなく、何の疑問を抱くことなく、そのままライブが終わるのを椅子に座って待っていた。
そして、ライブ終了後。