俺は、少し変わってて普通に生活をしていたら口にしないであろう「食」というものに興味がある男である。今でこそ一般的になりつつあるジビエもそのひとつで、今まで様々なジビエを食べてきた。
ちなみにジビエとは、
ジビエとはフランス語であり、狩猟によって、食材として捕獲された狩猟対象の野生の鳥獣、またはその肉を指す。英語圏ではゲームまたは、クワォリーquarryと呼ばれ、獲物を意味する。日本語には野生鳥獣肉と訳される。畜産との対比として使われる狩猟肉のことである。
Wikipedia ジビエ
人によっては、思わず眉をひそめる場合もあるだろうけど、俺はそういう類の「食」に対しての好奇心には抗わないことにしている。ようするにチャンスがあるのなら食べてみるというスタンスなのだ。
ジビエの王道である、鹿や猪はもちろんワニも食ったし羆も食った。雉も、カンガルーも、ラクダも、トドも食ったかな。まあ中には「それはジビエとは言わないんじゃね?」ってなものも含まれてるだろうけど、それくらい俺が「食」、とくに「肉」に関する「食」に対して興味を持っているというのが伝わればなと思う。
さて、今回も長い前置きになった。
祖谷に住んでる頃、こんな話を職場の先輩から聞いたんだ。
「マムシは結構旨い」「祖谷ではわりと頻繁に食べる」「祖谷のじいちゃん連中の中には、マムシを見つけるとワザワザ食べるために捕まえる人がいるほど」
みたいな。
蛇類を食べるというのは、サバイバル漫画や刃牙(作者が自衛隊出身)なんかで読んで知ってはいた。でも、そもそも俺は頻繁に山で遊んでいる割に蛇との遭遇率が極端に少なくて、人生で数えられるくらいしか出会ったことがなかった。そんなこともあり、食べる機会に恵まれないでいた。
それだけに蛇そのものが遭遇率の低いレアキャラみたいな感覚があったため、「え? 祖谷に住んでるとマムシ食えるかもしれねえの?」と内心テンションが上がった。
だけど、マムシを食べられるチャンスはなかなか訪れなかった。(もっとも、30年ものの自家製梅干しや手作りバラ寿司、コロッケ、デカ鍋で作った山盛りカレーやお好み焼きなど、シンプルに旨いものは山のようにご相伴に預かったんだけどね笑)
まあそのうち食べられるチャンスがくるはずさ~なんて思って過ごしていたわけ。
そんなある日、先輩からおつかいを頼まれて、仕事関係のおばちゃんちにスケジュールを打ち込んだ紙を届けることになった。事務所から10分15分くらい離れた、落合集落の上の方のご自宅だ。
社用車で行ってみると、どうやら近所の人たち数人と井戸端会議をしているようだった。面白そうだと思って、「こんちは~」と挨拶しながら近づいていくと、件のおばちゃんが手に何か串のようなものを持っているのに気が付いた。
「ああ、徳嶋君、こんにちは~」とおばちゃん。「ちわっす。これ、スケジュールの紙です」とおつかいをとっとと終わらせ、すぐに気になっていた串を凝視する俺。
何か棒状のものが「S」字で文字通り串刺しになっているのがわかった。
「それ、なんすか?」
俺があまりにも凝視しながら聞くものだから、井戸端会議の参加者たちは皆おかしそうに笑った。
すると、井戸端会議に参加していたおばちゃんちの大将が「マムシよ、マムシ」と腕組みをしながら白い歯を見せた。そして、別のおばちゃんが「精力つくでよ~」と笑う。
「えええ! マムシ!?」
俺のリアクションが気に入ったのか、おばちゃんが面白半分に「良かったら食べるで? ほなけどいらんやろ?」とからかいの眼差しをむけてきた。いやいやいやいや。俺からすれば、願った狩り叶ったりの大チャンスである。断る理由など微塵もなかった。
「食います! 食いたいです!」
とかぶせ気味に言った。「えっ? ホンマに食べるん?」とおばちゃん。「実は前々から食べたかったんすよ、マムシ」と答えると、大将が「変わっとんなあ」と苦笑い。
「ほな、縁側に干してあるんが他にあるけん、持ってきて食べな」
とおばちゃん。「わーい」と大喜びで縁側に向かって駆けていくと、そこには確かにおばちゃんが持っていたのと同じように、「S」字に串刺し状態のマムシが吊り下げられていた。それを手に取り、「いただきます!」というと、俺は焼き鳥でも食べるようにムシャムシャと食らいついたのである。
マムシが猛毒を持った蛇であることは100も承知である。だけど、祖谷に住んで何十年の大先輩が食べられるというのなら、毒の心配もないのだろうと、躊躇は微塵もなかった。
食べながら思った。
「ホッケに似ている」と。
その串刺し状態のマムシというのは、日干しにされてほとんどミイラ化していたので、そんな食感になったのだろう。気になっていた生臭さなどは皆無で、肉質にもクセは感じられなかった。ただ、もう少し塩気があれば、ちょうどいいおつまみになったかもしれない。
醤油をひとたらしすれば、立派なおかずにもなりうるとも思ったな。
「うまい、うまい」とマムシをむさぼり食う俺を見ながら、「よっぽど腹減っとったんかいな」と笑う井戸端会議軍団であった。全部食べ終わったあと、「ごちそうさまでした! これで昼からもギンギンで頑張れます」と力こぶを見せた。
こうして祖谷でひとつ小さな夢をかなえた俺は、その日元気に働いて過ごすことが出来たのである。
とはいえこのとき俺が口にしたのは、あくまでマムシのミイラだからね。もっとマムシマムシしたというか、蛇蛇した感じのを食べるまでは「蛇を喰った」とは胸を張れないんじゃないかと思わないでもない。まあ機会があれば食べてみたいなくらいでおさめておくとするか。
以上、祖谷思い出話でした。それではまた、したらなー。